本誌の前号で,フォーカスグループインタビューとLibQUAL+®の結果を受けて計画された,「学習支援強化のための3年計画」の1年目の取り組みを報告した。あれからはや1年がたつ。本コラムでは,3年計画2年目の成果のうち,2つのグループ学習室の設置について報告したい。
新たにグループ学習室を設置することになった場所は,図書の配置の正規化によって空いた小閲覧室と複写担当の旧事務室の2箇所である。空間としては微妙に連続した中と小の2部屋が利用可能になったことで,異なる2種類の場を作れることになった。
一つの部屋の用途はほぼ決まっていた。LibQUAL+®のコメントに書かれていた,グループごとに独立したスペースの設置である。中サイズの部屋が適当だったが,照明や空調の関係から,グループを完全に仕切ることができないことが判明したため,ラーニングコモンズについての情報収集時に注目していた,ペンシルバニア大学のインフォメーションコモンズに設置されているファミレス型のベンチソファを置くことに決めた。ペンシルバニア大のベンチソファは,座ると完全に目線をさえぎる高さがあるために,グループの独立性も確保されつつ,知的で洗練された空間となっており,グループでわいわいやっている姿も,2〜3人で真剣に作業している姿もとても素敵だった。
さて,もう一つの小部屋である。ここは,他にはない理工らしい空間にしたかった。理工学部の学生の学習スタイルにあった学習の場とは一体どのようなものなのだろう?キャンパス内の図書館以外のコモンスペースで,学生がグループで学習しているのがみられるのは,図書館の向かいのカフェスペースである。カフェの机はしゃれているのだが小さいために,彼らは教科書とノートをちんまりひろげて学習している。ここでは飲食ができ,ざわめき感もあり,うまくいけばリラックスしながらも集中して勉強ができる。しかし,ということは,図書館でこの空間のくり返しはしなくていい。
図書館内で,学生の学習の様子を観察していた時に聞いた彼らのコメントを思い出す。
「ぼくらは紙と鉛筆さえあれば勉強できます。」
そうなのだ。抽象的な概念を操作する文系と異なり,理系の彼らがディスカッションをしたり学習したりするには,紙と鉛筆が必要なのだ。彼らは事象を図式化して伝達する。つまり,これだ。
http://www.st.keio.ac.jp/students/index.html
(ここの画像を見てください)
小部屋のコンセプトは,(理系のための)ディスカッションルームに決めた。回りの壁をすべてホワイトボードに,つまり床から天井までの壁のすべてを紙と鉛筆にした部屋である。椅子や机はどこの壁にでも寄り添えるように,小さめの移動可能なものを選択した。もちろん,これも無から考え出したわけではなく,イメージの元は,デンマークのモメンタム社のオフィスにあるアイデアルームである。
その後,2つの部屋がどのように利用されているかであるが,そうして使って欲しいと願ったとおり,席は笑顔のグループで,壁は本当に全面見事に数式で埋まった。嬉しかった。
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