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ナンバー13、2006年 目次へリンク 2006年10月1日発行
 
大学図書館をめぐる著作権の動向―2
吉沢 亜季子(よしざわ あきこ)
メディアセンター本部係主任
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1 はじめに
 図書館員は常日頃から,「著作権法の範囲内か」ということを気にしながら仕事をしている。著作権は,紙媒体の複写のみならず,図書館資料の館内閲覧や貸出,データベース,電子ジャーナル,映像資料の利用など,図書館が提供する全てのサービスに及び,運用の仕方に悩むことも多い。2003年11月より,国公私立大学図書館協力委員会「大学図書館著作権検討委員会ワーキンググループ」,「大学における文献複製物の提供方法に関する権利者・大学図書館間協議」(以下,ILL協議),「著作権に関する図書館団体懇談会」のメンバーとなり,「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」(以下,当事者協議会)にはオブザーバーとして参加することとなった。2003年発行の『MediaNet』No.10において,「大学図書館をめぐる著作権の動向」を,平吹佳世子,関恭子が執筆している(参考文献1)。今回は,その後の動きとして「大学図書館間におけるILLに電子的送信の利用が可能となったこと」と,「著作権法第31条の運用に関する2つのガイドラインが発表されたこと」という,大学図書館に関わる大きな2つの事柄について報告する。前者については,2005年発行の『MediaNet』No.12「大学図書館と著作権」に松本和子が執筆している(参考文献2)ので,ここでは話し合いの経緯と,ILLの現場での対応を中心に報告する。

2 ILLに電子的送信の利用が可能となったこと
  2004年3月に国公私立大学図書館協力委員会と2つの著作権等管理事業者が「大学図書館間協力における資料複製に関する許諾契約書」を交わし,その「ガイドライン」(参考文献3)を発表した。これにより,株式会社日本著作出版管理システム(JCLS)と,有限責任中間法人学術著作権協会に権利委託されているものは,大学図書館間で文献複製物をファックス送信,インターネット送信(画像イメージを電子メールに添付して送信することを含む)を行うことができるようになった。話し合いの場となったILL協議では,現在,大学図書館で行われているILLの実態と動向について,権利者側に様々な観点で説明を行った。その内容は,Nacsis-ILLにおける大学間の文献複写依頼件数の推移や,年代別の需要,電子ジャーナルの普及により減少傾向にあるという報告等である。また,各国で著作権に対する考え方に違いはあるものの,欧米の多くの大学図書館ではILLに電子的送信を利用しており,早さの面でも学術研究に大きく貢献していることも参考にし,権利団体からも一定の理解を得ることができた。図書館側が注意すべきことは,一定以上の利用があった資料については購入努力をすること,利用者には紙面に再生した複製物を渡し画像イメージの中間複製物は破棄すること,対象となる資料は先にあげた2つの著作権等管理事業者に限ること,利用対象は大学における教職員及び学生個人の調査研究目的であること等である。
 三田メディアセンターでは,このガイドラインを受け,2004年6月より海外に対して電子的送信による文献複製物提供のサービスを開始した。これまで海外からは,電子的送信での提供を受けており,場合によっては国内に依頼するより迅速に提供できることや,誤配による未着,船便による遅延の心配もなく,その便利さを実感していた。提供する側の立場になったことで,住所の記入や梱包の手間を省くことができ,郵便料金も節約できる等双方にとってメリットが大きいことも分かった。一方,国内への適用については,海外と比較して処理件数が多いという理由から簡単に導入するのは難しく,現在は行なっていない。電子的送信を行う場合は,従来の紙での送付とは業務の流れも変るので,ILL担当者と複写担当で業務の見直しが必要になる。更に,その文献が許諾がされているかという確認作業が加わることや,電子的送信と郵送の2本立てとなるのは,作業効率の低下を招いてしまう。これらの問題を順次解決して将来的には国内へのサービスも導入されることであろう。

3 著作権法第31条の運用に関する2つのガイドライン
 2006年1月に「著作権法第31条の運用に関する2つのガイドライン」(参考文献4)が,(社)日本図書館協会,国公私立大学図書館協力委員会,全国公共図書館協議会の3団体により発表された。これは,当事者協議会で,図書館側5団体と権利者側6団体が話し合いの場を持った(参考文献5)成果である。著作権法を遵守する図書館員と,文献複製を希望する利用者との間でトラブルになるケースはよく耳にする話であるが,この2つのガイドラインにより若干は回避できるものと思われる。以下に,ガイドラインの主旨を説明する。
 一つ目は,「図書館協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」である。ILLで取り寄せた資料は,著作権法第31条にある「図書館資料」に含まれないという解釈により,持ち込み資料と同じように複写サービスの対象外資料として運用してきた。そのため,一部分の複製を入手するためには,借り受けた資料を所蔵館に返却し,改めてILLによる依頼をするという対応となるが,これは,利用者にとっても図書館員にとっても時間と手間,経費がかかるものであった。また,どちらで複製をしても1件の複写という実態には変わりはないことから,著作権を侵害しているとも考えにくい。このガイドラインにより,借り受けた図書館でも複製ができるようになり,その煩わしさから解消されることになった。しかしその一方で,権利者側としては,そもそもILLという行為自体に出版物が売れなくなるという危惧を抱いている。そのため,ガイドラインの中では,借り受けた資料を複写できるのは,その資料が「入手困難な場合」と定め,図書館への購入努力を義務付けた。
 二つ目は,「複製物の写り込みに関するガイドライン」である。事典の一項目は一著作であることは,図書館員であれば周知されている事柄であるが,一般の利用者からは理解されにくい。俳句や短歌も同様である。全体の分量が少ない一著作の複写を行う際に,一定の部分を遮蔽して全部が写らないようにすることはできるが,現実的にそのような対応をすることは難しい。そこで,権利者の経済的利益を侵害しないという前提で,複製を行う際に同一紙面に写り込まれてしまうものは,部分を遮蔽することを要しないというガイドラインを作成した。対象外として,楽譜,地図,写真集,画集,雑誌号の最新が挙げられているので,注意したい。
 当事者協議会では,現在でも引き続き図書館側と権利団体側の双方で問題点を出し合い,会合を重ね検討を行っている。

4 おわりに
 国公私立大学図書館協力委員会の大学図書館著作権検討委員会により作成されている「大学図書館における著作権問題Q&A」(参考文献6)は,2002年に公開されてから現在までに5版まで版を重ねている。新しい話題は,版を重ねるごとに追加され,図書館員が迷った際の拠り所となっている。2003年以降の3年間をみても,データベースや電子ジャーナルの急速な増加や扱う媒体が多種多様となっていることなど,図書館を取り巻く環境は大きく変化し,現行法で対応しきれない問題は尽きない。「変わらない」著作権法と,「変わる」図書館の間をどう取り持っていくか,これからも著作権の問題から目が離せない。

参考文献
1)平吹佳世子,関恭子.大学図書館をめぐる著作権の動向.MediaNet.no.10,2003,p.52-53.
2)松本和子.大学図書館と著作権.MediaNet.no.12,2005,p.62-63.
3)国公私立大学図書館協力委員会.大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン.2005年7月15日.(オンライン),入手先<http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/
ill_fax_guideline_050715.pdf>,(参照2006-07-01).
4)著作権法第31条の運用に関する2つのガイドライン.2006年1月1日.(オンライン),入手先<http://www.jla.or.jp/fukusya/index.html>,(参照2006-07-01).
5)日本図書館協会著作権委員会.当事者間協議等に対する取り組み.(オンライン),入手先<http://www.jla.or.jp/copyright/Tojishakankyogi/tojishakankyogi.html>,(参照2006-07-01).
6)国公私立大学図書館協力委員会.大学図書館における著作権問題Q&A(第5版).2006年3月23日.(オンライン),入手先<http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/coop/copyrightQA_v5.pdf>,(参照2006-07-01).

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