1 はじめに
2007年9月日吉メディアセンター内に設置された読書推進ワーキンググループは,日吉図書館の主要な利用者である学部1・2年生を対象に「本を手にするきっかけ(仕掛け)を作り,それによって学生に読書の楽しみを知ってもらい,図書館をより活発に使ってもらう」ことを目的に活動を開始した。
前号(MediaNetNo.16(2009))「日吉図書館の施設・サービス改善」の記事の中で「読書推進活動」についての報告があるが,本稿ではそれに加え,読書推進ワーキンググループ(以下,WG)の活動について報告する。
2 活動内容(経過)
(1)新着図書棚の活用(2007.9〜)
新着図書は,新着図書棚に1週間並べているが,ただ並べるだけではなく展示の仕方を工夫した。棚にブックスタンドを置いて本の表紙(顔)を見せ,少し暗かった部分には照明をつけた。そして,これまで捨てていたブックカバーを有効活用し,棚の横に置いたボードに貼り出しポップをつけた。さらに,腰かけて本を読めるように,棚の前に椅子を置いた。その結果,入館ゲートからまっすぐ新着図書の棚の前に行き,本を手に取る利用者が目立つようになった。
(2)文庫・新書のカバーを生かす(2008.7〜)
新着図書とともにブックカバーを貼り出した結果,カバーの写真や絵,タイトルの文字などがきれいで目を引き,図書を手にする一つのきっかけを作った。できれば,カバーをつけたまま図書を書架に置きたいと考えたが,すべての図書をそのようにするには手間と経費がかかり過ぎる。そこで,学生が手軽に利用している文庫・新書のみ,資料の保護にもなることからカバーをつけたまま書架に並べることとした。なお,文庫・新書は,選定基準の見直しも同時に行った。これまで特定の文庫,新書のシリーズのみを購入していたが,学生の動向をみて随時必要なものが購入できるようにした。また,書架を増設し文庫・新書コーナー自体も拡大した。
(3)「1階ラウンジ」の改修(2008.9)
新着図書棚の前に椅子を置いたことで,ゆったりと読書をしている利用者の姿をカウンターからよく見かけるようになった。1985年に日吉図書館がオープンした当初,入退館ゲート横のエリアは,大きなソファが置かれ,新着図書や雑誌や新聞を閲覧することができる場所だったが,時代の流れで1999年からはそこはパソコンエリアになっていた。今回の改修で,入口付近のこの一等地が,再び読書のためのスペース,「ラウンジ」として生まれ変わった。一方,同エリアに設置されていたパソコンは別の場所に移動させ,利用の多い館内パソコンの設置台数を減らさない工夫もした。改修計画を立てつつ新たなラウンジの活用方針を策定した。読書に興味をもってもらうための企画展示を常に展開し,図書館から「読書」に関する情報を発信しつづける一方,利用者からも意見を吸い上げる仕組みを構築し,図書館と利用者の双方にとって,読書推進のためのコミュニケーションの場になることを目標に挙げた。
2008年秋学期開講に間にあうように改修したラウンジは,変形書架とカラフルな色合いの椅子を置くことで,学生に注目され一挙に「ラウンジ」が認知された。(ラウンジは今号の表紙写真を参照のこと。)
(4)ラウンジを使った企画の展開(2008.9〜)
最初は,2007年度に貸出の多かった図書を分野別に一覧表とともに展示した。続いて2008年12月からは,教員から「慶大教員が慶大生にススメる本」「大学に入ったら読んでほしい本」「学生時代に読んだ思い出の本」「夏休みに読みたい本」などのテーマで推薦図書と推薦文を書いていただいた。それに加え,教員に「慶應の学生にひとこと」「どんな学生でしたか?」「自己紹介」等をインタビューし推薦図書と一緒に紹介・展示している。教員からの推薦図書の展示に加え2009年10月からは,学生からの“オススメ本”の展示を始めた。日吉図書館をよく利用している学生に協力してもらい「慶大生が慶大生にススメる本」,学習相談員(日吉キャンパスの教養研究センターとの協力で日吉図書館内で実施している学習相談アワーの相談員)からは「レポートで困っていませんか?」のテーマで解決法とオススメ本を展示紹介した。(表1参照)今後も,教員,学生のオススメ本の展示に加え,スタッフのオススメ本,ランキング本,教員の書棚,特集本など,多彩な企画を予定している。ラウンジで展示する図書は,多くの人に読んでもらえるように複数冊用意し,ビニールカバーを付け貸出している。
(5)ラウンジに常設雑誌(2009.9〜)
本の情報誌「ダビンチ」「本の雑誌」を3階の雑誌室からラウンジに置き場を変えることで手軽に閲覧できるようにした。また,「読書のすすめ」関連の記事が特集された雑誌やブックレビューの切り抜きファイルを置いた。新聞や週刊誌の「書評」は,学生向とは限らないため対象にしなかったが,今後は,出版社の情報誌を展示することによってさらに情報の提供をおこなっていく予定である。
(6)出版情報誌からの選定(2009.10〜)
学生の声を収集する手段として,学生に自由に選書をしてもらうことにした。ラウンジに「ウィークリー出版情報」をおいて図書館に置いて欲しい本に○(まる)印を付けてもらう。購入の判断は,日吉選書基準に合わせるが,○(まる)が付けられた本は「所蔵あります」「発注しました」「購入できません」の3つに分けパネルに貼り出し選んだ学生への返答としている。また,購入した本が利用できるようになると「ラウンジで選ばれた本」のポップを付け新着図書棚に置いている。
(7)「本のソムリエ」講演会(2010.5.18)
日吉行事企画委員会(HAPP)との共催で,日吉図書館セミナーコーナーにおいて「本のソムリエ」としてテレビや雑誌などで取り上げられている清水克衛氏の講演会を開催した。当日は「君の悩みに効く本は…」といった具合に,学生からの質問に実際に推薦する図書を見せながら答えていくやりとりが繰り広げられた。
図書館内での講演とあって,偶然居合わせた学生も興味深く聞き入る姿が見られた。
(8)その他
KOSMOSのタグ機能を活用し,KOSMOS上の該当図書のタグ情報に「日吉メディアオススメ本」「○○先生のオススメ本」といったデータを付与し“オススメ本”というキーワードでも検索できるようにした。また,日吉図書館Webページに「読書のすゝめ!」を開設し,ラウンジでこれまでにおこなった展示について,推薦図書や推薦文を,推薦した教員についての紹介とともに掲載している。
日吉図書館Webページ 読書のすゝめ!参照http://www.hc.lib.keio.ac.jp/studyskills/book-reading.html
3 成果
新着図書を展示している期間(配架日から7日以内)に貸し出された図書の冊数と割合を表2に示した。これをみると新着図書棚を活用し始めた時期以降,新着図書が借りられる割合が大幅に増えていることがわかる。これはWGの活動が,学生に図書への興味を抱かせ,実際に手にとってもらえるようになった効果と考えられる。
また,日吉図書館の利用統計からは,入館者数の減少(日吉キャンパスに2010年4月桜並木アプローチができ学生の流れが大きく変化した影響)が見られたものの,貸出冊数は,増加していることがわかる。これも,WG活動の成果であろうと自負している。(表3参照)
2010年4月より貸出規則を改定し,貸出冊数の制限をなくした。昨年度まで,たくさんの本をカウンターに持ってきた学生に,「冊数がオーバーしています。貸出できません」と断らなくて済むのがとても心地よい。
4 今後に向けて
以上のようにWGは,学生に本に関心を持ってもらい,本を手にしてもらうきっかけ作りを中心に活動し成果を出してきた。2010年11月には新たな試みとして学生に,図書館に置く本を選んでもらう「塾生選書ツアー」を実施した。選んだ本を,自分たちで紹介し展示することによって,日吉図書館が自分たちの図書館であることをより強く意識してもらうことを目指している。
教員には,これまで「教員オススメ本」で日吉図書館の活動に協力いただいているが,今後もより多くの教員に協力を仰ぎ“オススメ本”データの蓄積を進めていく予定である。
また,図書館外の企画 たとえば理工学部の「人間教育講座」,大学生協書籍部の「読書マラソン」などとも連携し関連図書の紹介をおこない,読書推進活動のさらなる発展に繋げたい。
以上
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