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ナンバー17、2010年 目次へリンク 2010年11月30日発行
海外レポート
トロント大学図書館研修報告
吉田 真希子(よしだ まきこ)
信濃町メディアセンター
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1 はじめに
 2010年1月11日から2月5日まで,交換研修協定に基づく慶應からの5人目の派遣者としてトロント大学図書館(以下,UTL)で研修する機会を得た。期間は通常6ヶ月であるが今回は慶應側の事情により4週間の研修となった。信濃町メディアセンター(以下,信濃町)からの派遣のため,今回はじめてサイエンスとヘルスサイエンスの図書館Gerstein Science Information Centre(以下,Gerstein)を起点に研修を行った。Gersteinはカナダで最も大きなサイエンスとヘルスサイエンス分野の大学図書館のひとつであり,UTLの40以上ある図書館の中で2番目に大きい図書館である。

2 研修の進め方
 さて4週間で何を研修するか。1つのテーマに絞るべきか迷ったが,自分が三田と信濃町のレファレンスに約10年間勤務してきた中で興味が生じた事柄を可能な限り見聞きするという方針で,研修計画を立案した。そちらのご都合に合わせます,という前書つきで提出した研修計画には(1)Gersteinの運用とサービス,(2)UTLのレファレンスサービスとコンシューマーサービス,(3)UTLのオンラインレファレンスの運用と実績,(4)総合大学における図書館サイトの運用,(5)関連病院図書館の運用とサービス,(6)北米における東アジア図書館を挙げたが,ほぼすべて研修対象とすることができた。実際の研修はUTL内やコンソーシアムの各種ミーティングへの出席,テーマに関する部署や図書館の訪問,ライブラリアンとの面談,インストラクションへの参加,信濃町についての私からのプレゼンテーションなどで進み,4週間はあっという間に過ぎた。
 (1)〜(4)の成果はすでに報告しているため(注・参考文献1),本稿ではそれ以外の(5)関連病院図書館を取り上げることにしたい。なお近年のUTLの方向性については前任者の報告(注・参考文献2)が詳しい。

3 トロント大学の関連病院
 トロント大学には慶應のような付属病院はない。代わりに大学は複数の病院と提携し,学生や研修医はそこへ研修に行く。こうした教育・研修を行う病院をTeaching Hospitalと呼び,トロント大学には20以上のAffiliated Teaching Hospitals(以下,関連病院)があった(注・参考文献3)。
 関連病院のうちトロント市内にあるカナダ有数の小児科専門の病院Hospital for Sick Childrenの病院図書館,University Health Network Hospital(以下UHN)の病院図書館,Women's College Hospitalの充実した患者図書館Marion Powell Women's Health Information Centreを訪問しDirectorとライブラリアンに話を伺った。Gersteinから徒歩10分の場所に多くの病院が立ち並ぶ通りがあり,いずれの病院もそこに位置していた。以下具体例としてUHNの事例もあげて病院図書館を紹介したい。

■University Health Network Hospital Library
 トロントの3つの病院が統合された組織(注・参考文献4)の図書館で,閲覧・選書・アーカイブ・ILL・システム・電子サービス担当など総勢17名のスタッフを有する。5人のInformation Specialistと呼ばれるライブラリアンが医局や分野ごとに担当し,インストラクション,プロモーション(医師へのメールアラートを含む),個別指導,毎週のモーニングレポートやカンファレンス(病院の臨床所見検討会)への同席など,医師や医局と密に連絡をとりサポートする運用が築かれていた。実際に1つのカンファレンスに同席し仕事の一端をみることもできた。
 UNHの病院図書館はマーケティングとプロモーションに力を入れている。“Not wait & Go out”を方針に,分野毎にインフォメーション・スペシャリストを設置することに始まり,新任者には必ずメール,毎週3日のインストラクションの開催,統計の徹底が行われていた。担当者や医局別に,インストラクション数,検索クエリ数,プロモーション数などの統計を出している。サービス対象グループの変化の把握に役立てているそうである。

 以下は病院図書館全般の話となる。関連病院は,UTLが契約する電子リソースへの限定的なアクセスやILLなどの協力体制があるが,大学とは全く別の組織であり,電子リソースの購読も病院独自またはコンソーシアムを通じて契約している。トロントの多くの病院図書館が加盟しているのがHealth Science Information Consortium of Toronto(注・参考文献5)であり,コンソーシアムの事務局長のオフィスはGerstein館内にあり,経営委員会のメンバーにはGersteinも参加している。
 病院図書館のサイトは,電子リソース・EBMリソース・トレーニングを前面に出したトップページで,ターゲット層が似ている信濃町で参考にしたい点があった。特にUHNは病院のIT部門の協力を得て洗練されたサイトを持っていた。ただし病院ネットワークの都合上いずれも外部非公開であった。
 図書館とやや離れるが,驚いたのは3つの病院全てがアーカイブ部門を持ち,専任あるいは兼任でアーキビストを置いていたことである。2つの病院で24時間温度湿度管理のアーカイブ庫も見学した。
 病院図書館を訪問して,主たるユーザーが医師・研修医・医学生という点やその規模の面で,信濃町に近いものを感じ,サービスや運用体制において比較や参考にしたい点が多々あると感じた。ただしそのようなことを告げたところ,Hospital for Sick Children, UHN両方のDirectorから「最も重要で忘れてはいけない違いはここがAcademic Libraryではないことよ」と念を押されて,はっとする場面があった。Hospital for Sick Childrenの病院図書館のDirectorが「病院の(部署の)中でチャンピオンにならないといけないの」といった言葉が印象的で,病院における図書館の存在意義の獲得競争は非常にシビアであるのがひしひし感じられた。運用する組織の目標が異なるため並べて考えることは適切ではないが,それを踏まえた上でもなお病院図書館のサービスと運用は興味深い。

4 おわりに
 4週間という短い期間にも関わらず,予想よりもはるかに充実した研修になった。全てを紹介できないのが残念だが,今後のメディアセンターのサービスに活かしたい。Gerstein・UTL・病院図書館の現場で具体的な情報を多く得られたことも収穫だが,それを通じてメディアセンターの運用やサービスについて考えたこと,一線で働く様々なライブラリアンの個性と職務と考え方に触れたことがこの先の自分自身にとって重要で大切な収穫であったと思う。約40名のライブラリアンに話を伺ったのだが,どの方も誠実かつ親切に対応してくださった。
 今回の研修で多くの助言をくださり,研修計画の希望に合った数多くの訪問先とライブラリアンとの面談を調整してくださったGersteinのDirectorであるS. Langlandsさんに心から感謝している。プライベートでも親切にしてくださったGersteinの皆さん,訪問先のライブラリアンの皆さん,快く送り出してくれた信濃町メディアセンターのスタッフにもこの場を借りて深く感謝したい。

注・参考文献
1)吉田真希子.“トロント大学図書館研修報告”2010年6月25日慶應義塾大学メディアセンター内部における発表会.
2)酒見佳代.“30年後の図書館とは?―トロント大学図書館の指す方向―”.MediaNet.no.15, 2008, p.68-70.
3)UTL Postgraduate Medical Education. “ Affiliated Teaching Hospitals ” . http://www.pgme.utoronto.ca/hospitals.htm,(accessed 2010-08-17).
4)University Health Network. http://www.uhn.ca/,(accessed 2010-08-17).
5)Health Science Information Consortium of Toronto. http://hsict.library.utoronto.ca/,(accessed 2010-08-17).

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