情報を利用する(引用・著作権)
この章では情報の正しい利用について、引用と著作権の観点から学びます。
引用について理解する
この項では、正しい引用方法を学びます。日吉メディアセンター作成の「情報リテラシー入門テキスト」の10章「引用の方法と参考文献の書き方」でも詳しく解説していますので、合わせて参照してください。
引用とは?
「引用」とは、印刷物、インターネット上のいずれであっても既存の著作から文章、図表、調査データまたは意見や理論などを、自分の論文・レポートの中で参照することをいいます。つまり、収集した情報を適切に「使う」行為です。 論文・レポートの冒頭ではテーマの背景説明をしたり、同じテーマの先行研究が掲載された文献のレビューを提示したりする際に引用を用います。また、考察の部分では、自分の論理展開を支持するために根拠となる既存の研究成果から引用することはとても効果的です。 似たものに「参考文献」がありますが、広義では論文・レポート全体で参考にした文献を指します。一方、「引用文献」は本文中に個別の内容が示されている場合を指します。狭義には元の資料に掲載されているとおりの文字列やデータをそのまま含める場合のみを指します。
引用する際の留意点
「引用」する際は以下の2点に留意しなければなりません。
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具体的には、他人の研究成果、あるいは自分の研究成果でも別の著作と、現在書いている論文・レポートの独自の内容とが区別できることが重要です。また、読者が元の研究成果に戻って参考にするためには、一般的に入手しやすい情報を引用し、典拠として必ず引用した情報源の書誌事項(論文のタイトルや掲載誌名、巻号、ページなど)を標準的なスタイルで示すことが大切です。
引用方法
ここからは引用方法とスタイルを紹介します。実際にどの方法あるいはスタイルを選択するかは、論文・レポートの提出先、たとえば先生の指示や投稿雑誌の執筆要綱などに従ってください。まず、他の著作に掲載された文章をそのまま使うかどうかで2通りの引用方法があります。
元の文章をそのまま引用する
ドラッカーは意思決定について、「意思決定は判断である。いくつかの選択肢からの選択である」1)と述べている。
引用文献
1)ピーター・ドラッカー『プロフェッショナルの条件』,上田敦生編訳(東京:ダイヤモンド社,2000),158.
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自分のことばに変更して引用する
ドラッカーは、意思決定は判断であり、しかもそれは、正しいかどうかも疑わしいような選択肢からの選択であるとしている1)。
引用文献
1) ピーター・ドラッカー『プロフェッショナルの条件』,上田敦生編訳(東京:ダイヤモンド社,2000),158.
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引用文献の本文とリストでの記載方法
大きく分けて2通りあります。
番号によって示す
...このような状況において、フランクルは「第二段階の主な徴候である感情の消滅は、精神にとって必要不可欠な自己保存メカニズムだった。」 1)と分析している。
引用文献
1) ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』,池田香代子訳(東京:みすず書房,2002),45.
2) ...
3) ...
著者名と出版年を入れて示す
...このような状況において、フランクルは「第二段階の主な徴候である感情の消滅は、精神にとって必要不可欠な自己保存メカニズムだった。」(フランクル2002:45)と分析している。
引用文献
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』,池田香代子訳(東京:みすず書房,2002),45.
引用のスタイル
文献リスト中の書誌事項(著者名、論文のタイトルや掲載誌名、巻号、ページなど)の記載方法には様々なスタイル(記載順序や区切り記号、文字フォントなどの使用についての決まり)があります。論文の投稿先で独自にスタイルを定めている場合もありますが、分野によっては、良く使われる海外の標準的なスタイルを指定した論文の執筆マニュアルもあります。ただし、国内においては、標準的なスタイルが存在しません。そのため、分野によりまちまちな記載スタイルがとられているのが現状です。スタイルの指定がない場合は、他の文献を参考にしながら、統一のとれた方法で書誌事項を記載してください。引用スタイルについては、「引用・文献管理:引用スタイル」(慶應義塾大学リサーチナビ)で代表的な引用スタイルのマニュアルを紹介しています。ここでは、佐藤望氏の『アカデミック・スキルズ:大学生のための知的技法入門』第3版で提示されているスタイルを紹介します。
佐藤望編著,湯川武,横山千晶,近藤明彦著,2020,『アカデミック・スキルズ:大学生のための知的技法入門』,第3版,東京:慶應義塾大学出版会. |
図書 |
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著者(または編者),出版年,『書名』,出版地:出版社(電子ブックの場合は版名と取得日). <記載例> 森本あんり,2015,『反知性主義』,東京:新潮社. |
雑誌記事・論文 |
著者,出版年,「論文のタイトル」,『雑誌名』巻号:ページ(電子版の場合はURLと取得日). <記載例> 那須敬,2008,「言語論的転回と近世イングランド・ピューリタン史研究」,『史学雑誌』117巻7号:1301-1314(https://doi.org/10.24471/shigaku.117.7_1301,2022年1月11日取得). |
文献管理ツール
文献管理ツールとは、文献をオンラインで蓄積・管理し、論文の引用文献リストを簡単に作成することができる文献管理・論文執筆支援のソフトウェアあるいはオンラインツールです。文献の収集・管理・引用に役立ち、文献と文献情報の一元管理が可能で、多様な引用スタイルに対応しています。論文・レポート執筆時の参考文献リスト作成を効率的に行うことができます。詳細は「引用・文献管理: 文献管理ツール」(慶應義塾大学リサーチナビ)を参照してください。
剽窃(ひょうせつ)と不正行為
剽窃(ひょうせつ)
「剽窃」とは、学術的な研究発表において適切な引用を行わず、他人の考えを自分のものとして公表することをいいます。剽窃に、この程度なら許される、学生だから許されるなどのレベルの差はありません。剽窃は重大な違法行為であり、学問の世界におけるみなさんの名誉を著しく損なうことになります。独自性のある意見について、初めにそれを公表した人のオリジナリティを尊重して敬意を払うことは学問をする者として当然の義務です。レポートなどにおいては、自分の考えたことと他人が考えたことを明確に区別しなければなりません。まず、引用に関連した剽窃の例と、適切な引用をするための注意点を挙げます。
- 他人の著作から文章をそのまま「」なしに引用しない
- 文章をそのまま引用する場合は、「」でくくるか、前後を一行あけてインデントをつけるなど、明確に他人の文章と分かる書き方をしましょう。引用マークを入れることと文献リストへの情報源の記載も忘れずにしましょう。
- 他人のオリジナルな研究成果を、典拠として書誌事項をあげずに引用しない
- 典拠を記載しないと他人の研究成果の無断使用となり、自分の論文・レポートの信頼性が失われる結果につながります。必ず参照した資料を情報源としてあげましょう。なお、研究分野で通説となっていることや、常識とされている場合は特に引用としなくても良いでしょう。
剽窃を避けるために
大学で起こる剽窃の多くは、みなさんが努力を怠った場合に生じます。 提出の期限が迫っているために、他人の書いたものをつなぎあわせたり、他人の書いたものをそのまま写したりしてしまうことは、とても簡単だからです。
剽窃を避けるために、レポートの作成やゼミでの発表の準備には時間がかかることを理解し、十分な時間を使って学習しましょう。
- 課題のために十分な時間をかける
- 自分の理解していないことを言ったり、書いたりすることはできません。自分の言葉で表現するために、情報の分析に、じっくり時間をかけましょう。
- 作業用のノートをとる
- 課題のためのノートを作成しましょう。ノートには、アイデアやアウトラインなどを書き込んでいきます。また参考にした図書や雑誌記事やウェブページなどの情報をメモしていきます。メモをする場合には一字一句正確に写し、どの部分を引用したかがわかるように、「」などを利用して区別しておきましょう。新しく湧いたアイデアや必要なデータベース検索、自分のやるべきことなどもメモします。
- 調査の記録を残す
- データベースやレファレンスブックなどを調査した場合には、利用したキーワードの記録を残しておくようにします。後で再度確認をしたいときに、利用したキーワードを残しておくことで再検索が可能になります。
- 課題のための書誌のリストを作る
- いざ利用するときに、どこに書かれていたかわからなくなってしまうということを防ぐために、リストを作成することで、参考文献リストを作成する際の時間と労力の無駄をなくします。リストには、入手先(所蔵されていた図書館での請求記号など)もメモしておくと良いでしょう。収集した情報の一つ一つについての書誌情報を記録しておきましょう。
TIPS
大学における罰則
著作権への無理解、学問におけるモラルが不足し、剽窃が行われた場合には、大学の学部学則に則り、何らかの処分の対象となる可能性があります。
処分されるからという理由ではなく、一学生として、学問の世界における真摯な態度を身に付けてください。
その他の不正行為
剽窃(ひょうせつ)の他に、論文・レポート執筆に際して以下のような行為も不正です。決してしてはならないことです。
- 実験や調査結果のデータを捏造または偽造する
- 他人が書いた論文・レポートの内容を自分のものとして投稿・提出する
- 同じ論文・レポートを先方の了解なしに複数の宛先に投稿・提出する
著作権を理解する
自らの創作物に対する権利を守るとともに、他人の権利を侵害せずにすむように知識を持つことを目的として、人間の知的創作物を守る権利である「著作権」について学ぶことは重要です。
説明は「著作権について知る」(慶應義塾大学リサーチナビ)の各項目を参照してください。