情報を評価する
みなさんは、大学において様々な情報にふれます。それらの情報の中には、レポートを書いたり、プレゼンテーションをしたり、ディベートをしたりするという目的を持って収集するものもあります。集めた情報は、目的に合っているかどうか、自分の主張の根拠として有効かどうかを判断し、利用することになります。
レポートやプレゼンテーションなど、公にすることを目的としている場合には、みなさんが利用する情報の正しさや妥当性などが、そのまま主張の正しさや妥当性の判断材料となります。いい加減で曖昧な情報を利用した場合には、皆さんの主張もいい加減で曖昧であると判断されかねません。
同じテーマに関する情報が、いろいろな著者により、いろいろな形で世の中に存在します。図書や雑誌記事、新聞記事に書かれている情報は、どのように評価したらよいのでしょうか?インターネット上の情報はどのように評価したらよいのでしょうか?
自分の主張を相手に納得してもらうためには、十分に信頼でき、最も効果的な情報を選ばなければなりません。そのために、本物を見極める力、物事を批判的に見る力が必要です。これらの力を養うことは、大学における学びの目的でもあり、また社会においても重要な力となります。
それでは、集めた情報を評価する方法を学びましょう。
図書を評価する
一般に図書は、著者のほかに、編集者の目を経て出版されます。したがって、第三者の評価を経ているという点で、比較的信頼度の高い資料といえます。しかし、最近では技術の進歩により、編集作業が簡便になり、誰でも簡単に図書を出版することが可能になっています。また、出版されるものも、形態、附属資料、表現方法など変化に富んだものが増えています。
現在では、比較的信頼度が高いといわれる図書であっても、自分の問題解決のために適切かどうか、利用するべきかどうかを見極める習慣と方法を身につけておかなければなりません。
この項では、図書を評価するためのポイントを学びましょう。
著者について調べる
図書を評価するためにまず、その図書が、どのような人物によって書かれたのかを調べてみましょう。
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- Web検索や人物情報データベースを利用してその著者について、より詳しく調べてみましょう。
- OPAC(図書館の蔵書検索システム。慶應ではKOSMOS)や書店のWebサイトなどを利用して、その著者の、その他の著作を調べてみましょう。
出版社について調べる
次に、その図書がどのような出版社から出されているのかを調べてみましょう。
出版社は、大学出版会、学会、大手出版社、特定の主題に強い専門出版社というように大別することができます。大学出版会は学術的な出版、学会はその主題に特化した内容の図書を発行しています。大手出版社からは様々な種類の出版物が出されていますが、長い歴史と出版内容により社会的に認知度が高く、安心して読める本が多いといえます。
出版社の例
大学出版会 |
東京大学出版会、慶應義塾大学出版会など |
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大手出版社 |
岩波書店、講談社、角川書店、集英社 、新潮社など |
専門出版社 |
誠信書房(心理学)、 有斐閣(法学)、 医学書院(医学)、 東京化学同人(化学)、 オーム社(工学)など |
改訂情報について調べる
図書の中には、第2版、第3版、あるいは改訂版といった表示があるものがあります。図書が改訂される際には、出版後の変化に対応し、誤りが改められ、より読者と時代のニーズに沿った内容に更新されます。一般に、版を重ねている資料は、その分野での評価が高く、標準的な参考書として定着しており、信頼度の高い資料といえます。
資料の改訂を示す表示の例
第2版 |
内容を部分的に改めて再び発行したもの |
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増補版 |
図書の内容を増やし、不足を補ったもの |
目的と対象を調べる
次に、その図書が誰を対象に何を目的としているのかを調べましょう。図書の目的や対象は、その図書の「はじめに」などの序文で知ることができます。
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最新情報かどうかを調べる
その図書の情報は、いつ時点の情報なのかを調べましょう。タイトルページなどに書かれた出版年の他にも「はじめに」などの序文で、その図書がカバーする年代について記述している場合もあります。
レポートの課題や研究によっては、最新情報でなければ、説得力のある根拠とならない場合があります。例えば、統計データや世界の政治・社会情勢の変化、判例、IT、科学技術や医学に関する事柄などの事実に関する情報の場合などです。
さらなる最新情報を得るために、手元にある図書を参考に同じようなテーマを扱った、より新しい図書が存在していないか、OPACや書店のWebサイト、新刊図書情報サイトなどで検索してみましょう。
引用文献・参考文献が明記されているかを調べる
引用文献・参考文献がきちんと書かれているかは、情報を評価する際の重要なポイントです。
引用文献や参考文献は、その情報の出処を示すものです。引用文献、参考文献の表示がないものは、第三者による情報の検証を不可能にしている点で真摯であるものとはいえません。
引用文献や参考文献を明示することは、その考えや発見を誰が行ったのか明らかにし、その成果に対する敬意を表すものです。記述を怠っているものは、学問的な誠実さに欠けると判断できます。
内容を評価する
まず、図書の内容が自分の情報要求に対して適当なものであるか確認します。「はじめに」などの序文、目次、巻末の索引などをチェックすると、効率的に内容の全体像を把握できます。
次に、図書の内容を評価しましょう。その図書の内容は、思想、表現、取り上げ方などに偏りはありませんか?一方的な見方をしていませんか?
偏りは、出版の目的や著者によって表れます。ある政治団体のために書かれたもの、著者がすでに自分の立場・見方を表明して書いているなどの場合には、著者や出版社の確認も役に立ちます。
図書の内容を論理性などから判断するためには、知識や経験、訓練が必要です。あらゆる情報を批判的に読むための技術を意識して身につけていきましょう。
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TIPS
定評のある著者やその著作については、いろいろなところで紹介される可能性があります。授業で紹介されたり、教科書や参考書、事典類などの参考文献欄で紹介されたりします。
雑誌記事・論文を評価する
雑誌記事や論文はさまざまな方法で検索し、入手することができます。入手した記事や論文が、問題解決のために適当かどうか、利用すべきかどうかを見極めるには訓練が必要です。 この項では、雑誌記事・論文を評価するためのポイントを学びましょう。
一般雑誌と学術雑誌
一般誌や大衆誌と呼ばれる雑誌と、学術雑誌あるいは専門雑誌と呼ばれる雑誌に発表される記事とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
分野によっても違いはありますが、通常、目的、著者、対象者、体裁、用語の用い方、書き方、引用文献の有無などに違いがあります。こうした違いを理解することで、レポートや課題のために用いる文献として適切であるかどうかを判断することができます。
こちらも参照:「情報の種類と特徴」2-3.雑誌
学術論文の特徴
学術論文は学術雑誌に掲載され、次のような特徴があります。
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著者について調べる
次に記事や論文の著者について調べてみましょう。
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- researchmapや所属大学/機関のWebサイトなどを利用して、その著者についてより詳しく調べてみましょう。
- OPACやCiNii Reseachなどの記事索引データベースを利用して、その著者のそのほかの著作を調べてみましょう。
雑誌の評価を調べる
まず雑誌自体の評価を調べてみましょう。学術雑誌を評価するために研究対象としている分野における、重要で評価が高い雑誌や専門学会の学会誌を把握しておきましょう。雑誌自体の評価が高ければ、その掲載論文の信頼性も高いと考えられます。例えば、研究分野が心理学であれば、次のような関係を頭に入れておくと、研究に役立ちます。
日本心理学会 → 『心理学研究』 |
英語で出版されている主要な学術雑誌の評価について調べるには、以下のようなツールが役立ちます。
- Journal Citation Reports (Clarivate Analytics社)
特定の研究分野におけるその雑誌の影響度を計る指標である「インパクトファクター」を見られます。 - Scopus (Elsevier社)
同様に雑誌の影響度を計る指標である「Cite Score」を見られます。
内容を評価する
論文は、概説的な内容だけのもの、逆に細部に細かいものなど様々です。まずは論文の内容が自分の情報要求に対して適当なものであるか確認します。
次に、論文の信頼性について、最初はそれを判断するのは難しいかもしれませんが、以下のような点が認められる論文を根拠として利用するのは避けるべきです。
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論文における事実と、著者の意見や主張との区別には注意が必要です。もし、そこに書かれていることが本当に事実であれば、他の資料によっても確認することができるはずです。意見や主張は、ある事実をもとにした著者の解釈のことですが、著者のテクニックにより、単なる意見を事実として印象づけてしまうことも可能です。これらを見極めるために、情報を批判的に読む技術を身に付けましょう。
TIPS
有名な論文については、定評のある図書の場合と同様に授業、教科書や参考書、事典類など、いろいろなところで紹介される可能性があります。
インターネット上の情報を評価する
インターネット上での情報収集は、今やあたり前に行われています。しかし、レポートや論文の執筆のためにインターネット上の情報を使う場合には注意が必要です。
この項では、インターネット上の情報を評価するためのポイントを学びます。
誰が運営しているのかを調べる
そのサイトは誰が運営しているのか、そのページは誰が作成しているのかを調べましょう。
- 運営者や執筆者が明らかでないサイトやページの情報は、情報の責任が明示されていないという点から利用するべきではありません。
- 運営者の名前(組織名)が書かれていても、匿名が使われているものや、連絡先があいまいなものは、やはり信頼に足ると判断することはできません。
目的と対象を調べる
サイトの目的や対象は、サイトについての概要説明のページに書かれている可能性があります。しかし、目的や対象者について明らかにしていないサイトやページもたくさん存在します。インターネット上の情報の場合には、誰でも情報を発信できるというのが大きな特徴です。「誰が何の目的で」ということを常に意識しておくことが必要です。
最新の情報が反映されているかを調べる
そのサイトやページの情報は、いつ時点の情報なのでしょうか?記載があれば、更新日をチェックしましょう。
ただし、サイトは更新されていても利用したい部分について最新の情報が反映されていない可能性もあります。サイトやページを評価するために、1つの情報源に頼らず、他の情報源からも同様の情報が得られるかを確認するようにしましょう。
参考文献が明記されているかを調べる
インターネット上の情報の場合には、個人的な意見から、学術的な発表まで、さまざまなものがあります。どのような情報であっても発信者が何を根拠としてその内容を書いているのかを知ることは、内容を評価する上でとても重要です。根拠が明らかでない、出処がはっきりしていない情報は、信頼に足るとはいえません。
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内容を評価する
インターネット上には、誰でも情報を発信することができます。発信される内容は、発信者の目的や意図、個人的な考えなどさまざまな要因による影響を受けていると考えられます。図書の場合の出版社や編集者、論文の場合の査読制度のような第三者の目を経ていないので、内容の評価は、全面的にみなさん自身が行わなければなりません。内容を評価する際のポイントは、図書や論文を評価する場合と同じです。
内容を評価する際のポイントを再度確認しておきましょう。
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